手縫いの革小物の作品の紹介から、気まぐれで野菜栽培の記録、
異文化で生活する人々の記録写真や猫のことなども綴ります

病んでいた珍蝶の国 患者の治療に飛び込む 中村哲(1986年8月30日付 西日本新聞夕刊)

 

 

以下、記事から引用させていただきます。

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❝  ◎パキスタンの辺境の町でハンセン病治療にあたる 中村哲さん(39)

 小学生のころは、蝶のコレクションに夢中だった。蝶を野や山で追いかけているうちに、山が好きになった。8年前、福岡登高会の一員として、パキスタンアフガニスタン国境にそびえるヒンズークシ山脈のティリチ・ミールに登山。「珍しい蝶がいる」と聞いて、子供の時からあこがれていた山である。だが、そこで見たものは山奥の石小屋に閉じ込められたハンセン病患者だった。

 

石小屋

 集落を離れ山に入るにつれ、ポツン、ポツンと石造りの小屋。「あれは何か」と尋ねても、地元の人は口を開かない。やっと聞き出したのが「病人がいる」だった。(略)

パキスタンではハンセン病患者が見つかると、一家が村八分になる。そこで人目を避け石小屋に隠すのだ。「医者の一人として何かできないか」。蝶どころではなくなった。

(略)

専門はハンセン病ではなく神経内科。卒業後、佐賀県の国立肥前療養所で重度心身障害児を、あるいは大牟田労災病院では炭鉱事故による一酸化炭素中毒の後遺症患者を担当した。「行政や世論に忘れられたところで働きたい、みたいなところがあるんですかねえ」。自分で首をかしげて笑った。

 ハンセン病治療と熱帯病の研修を受け、4年前からペシャワルに。まず、治療薬が現地語でどう言うか説明するのに苦労した。民族により言葉が英語、パシュトゥ語、ペルシャ語ウルドゥ語と異なる。

(略)

 

サンダル

 いま力を入れているのが患者用サンダルの製作だ。ハンセン病患者は、足の感覚がないため、悪い靴を履いてマメができてもそのまま放置。つぶれて細菌が入り敗血症などになる。防止するためスポンジ入りサンダルを作っている。「ほかの医者には”靴屋さん”って冷やかされる」という。

 ペシャワル地方では、千人当たり5~6人がハンセン病患者。日本は全国で8千人。「もっと多いインドやネパールには海外の医療協力も厚いが”その次”のパキスタンが問題。私はペシャワルが好きだからやっているので、別に気高いことをしているわけじゃあないですよ。楽しいことですか。患者の病気がよくなっているのを見る時ですね」――柔和に笑っていた目に一瞬鋭い光が走った。(文=大西直人記者 写真=合原光徳記者)❞

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引用ここまで。